[コロナ] 私がホタルツアーを中止にした本当の理由

ホタルツアーを中止した本当の理由

13日掲載。18日修正。

島はホタルのいい季節。例年なら毎晩沢山のお客さまを夜の森へとご案内して、森の中を飛び交う数百匹のホタルたちをお見せしてる時期です。でも、りんぱなではコロナウィルス感染症への対策として、3月中旬より段階的に入客制限を設け、4月より他店に先駆けて営業を自粛しました。

今日はその理由をご紹介しようと思います。

弊社の自粛理由は、トップページにも掲載している通り「お客様と従業員の安全のため」、そして観光客の流れを少しでも減らすことで地域へのコロナウィルスの流入,伝搬を防ぎたいというのが狙いです。本音と建前というわけではありませんが、本当の理由はもう一つ別にあるんです。

りんぱなにとって、ホタルツアーとは

石垣島が最も混み合う時期は「夏休み」ですが、りんぱなが最も混み合う時期は3−5月。実はこのホタルツアーの時期なんです。正直な話、この時期の仕事を潰してしまうと年間の売上的に超がつくほどの大ダメージ。

というのも、うちのお店は他店と違って利益追求型では無いんです。
夏場にはサンゴの調査をしたり、秋冬には植樹をしたりしたいので、観光業で言う一番のかきいれ時は、そこまで頑張って仕事ができないんです。こういう話をすると他店さんや企業さんに不思議がられますし「いやいや。本当は違うでしょう」とも言われます。中々理解される事の方が少ないんだなと、やっと最近になって気づきましたが、僕がやりたいことはサンゴ礁の再生やホタルの保全、それを実現するための資金造成として、ホタルツアーをやってるんです。NPOが助成金をとってやるようなことを個人事業でやってると思っていただければ結構です

だからこそ、早々にお店をたたむ決心がついた

今回のコロナウィルスに話をもどします。

コロナウィルスは元来「ただの鼻風邪ウィルス」なんだそうですね。若い頃にウィルスの研究をしていた祖父が、2003年のSARSコロナウィルス(重症急性呼吸器症候群)流行時に教えてくれました。「鼻風邪なんて研究してもお金にならないだろ。だから誰も研究してないから、こういう流行が起ると慌てるんだ。ま、大丈夫だろう」とか何とか言って居た気がします。

人に感染する従来のコロナウィルスは4つ。そこにSARSとMARSが加わって、今回の新型コロナが入り、今は合計7つに増えました。ウィルスは突然変異をおこしやすく、コロナウィルスは中でも突然変異しやすいと言われています。SARSも遺伝子が違う4つのタイプが見つかったとさえされていますし、中国南部の洞窟では、SARSに似た複数のウィルスも見つかっています。

コロナウィルスの発生源は?

コロナウィルスの大半は、コウモリの仲間、主にキクガシラコウモリ Rhinolophus ferrumequinum を宿主とすると言われています。

石垣島にもヤエヤマコキクガシラコウモリ Rhinolophus perditus perditus を含めた4種が生息しており、私がホタルを見ているツアー中も、小型コウモリが常時、数頭飛び交っています。

暗闇で明かりをつけることもないのでコウモリの姿を見ることはできませんが、私は耳が敏感なので、小型コウモリの羽音や声も聞こえるし、この10年で2例、ホタルが捕食される様子も目撃しています。このホタルは地表から1m程度の低空を飛翔するので、実はコウモリも私たちの足元にまで降りてきて蚊などを捕食しているのです(うちのホタルツアーはコウモリに守られてるんです)。

それほどヒトに近い距離をコウモリが飛びますから、万一、咳などでコロナウィルスを林内に飛散させるとコウモリが感染する可能性は充分にあります。小型コウモリは日中は群れで洞穴などで過ごすため、そこでクラスターが形成される可能性があります。

私たちのホタルツアーが、島の生態系を壊してしまう可能性がある。でも、私がお店を閉めればそうした影響も低減できます。

コロナウィルスは新種ができやすい(変異しやすい)

最新の研究では、モデルなどを利用してウィルスが感染する動物を特定する作業が進められており、ジャコウネコなどへの感染が指摘されていました。イリオモテヤマネコへの感染も心配です。石垣島は離島への玄関口、水際で止める必要があります。ちなみに、イヌに感染する可能性は少ないとされてきましたが、海外では飼い犬に感染したケースも見受けられます。変異してるんだろうなと思ったら、4月10日には新型コロナは3種類に分類できると発表がありました。

となると、小型コウモリだけでなくオオコウモリへと伝搬される可能性もゼロではありません。私たちのフィールドではヤエヤマオオコウモリも沢山見られます。オオコウモリは木の実を採餌するために一つの木に複数が群がるため、そこで伝搬がおきてしまうとまたたく間に島内全域へと広がります。

あまり知られていませんが、美崎町などの繁華街、ホテルルートイン、アートホテル、ANAホテルの前などはオオコウモリのたまり場です。こうした場所で感染したオオコウモリが地面に落ちていたら、あまりないことと思いますが心優しい市民が保護してしまう可能性もゼロでは有りません。それに死んだオオコウモリを回収する際にもウィルスの感染がおきえますからリスクと評価すべきです。また、寛解したヒトの便からもその後1ヶ月以上に渡ってウィルスが検出されることから(且つ抗体が出来ているとは限らない)、オオコウモリの糞便を通じた感染が起きてしまう可能性も考えられます。飛びながら糞をしますし、その糞を踏んだ靴から感染がおこる可能性もリスクとして評価すべきです。香港におけるSARSコロナウィルスの発生はホテルの絨毯(患者が宿泊していた部屋の前を踏んで行き来したことで空気中にウィルスが飛散した)からと考えられています(18ページ、V. SARSの病原体に記載)。


(リンク)

危険な連鎖

変異しやすいウィルスですから、ヒト→コウモリ類→ヒトへと宿主が変わる過程でさらなる変異も起こりえます。考えすぎだと言われるとそうかもしれないけれど、100%それはあり得ないとは言い切れません。そうである以上、リスクとして評価をしておくべきだと思うのです。

では、どんな場所でヒト→コウモリへの伝搬がおこるかというと、最も可能性が高いのはコウモリの生息域にヒトが侵入すること。となると一つはコウモリが活発に活動する夜間に、ヒトとコウモリの接触がおきる環境(人数が10名以上あつまる夜のツアー)で、もう一つは、洞窟などの密閉に近いコウモリの生息環境化にヒトが入ること。リスクとしては先に前者を評価すべきです。

こうした危険性を誰も声にしていませんが、ホタルツアーなどの夜のツアーはリスクでしかないと考えています。

厚労省が3/27にまとめた国内での発生件数を見ると、3月10日前後を境に爆発的な増加が見られ、その後感染件数は右肩上がりとなります。後半更に増える様子を見ると、春休みに入り外国からの帰国者が増え、ウィルスを持ち帰って巻き散らかしていることは目に見えました。このデータに気づいたのが29日の深夜。急いでりんぱなのホタルツアーを閉めるべきだと思ったのです。

でも、ホタルツアーを閉業するとサンゴの調査や移植などができなくなってしまう。ホタルツアーは資金造成プログラムでもあるので…。そう考えると中々頭が痛い決断でしたが、でもやるしかなかったですね。

4月10日には東京で1日あたりの新規の感染者数が189名、11日は197名と、1日に約200人の判定が出ました。後になってみないと解らないことですが、結果的には厚労省の3/27のデータの通り、右肩上がりに進行してしまったんです。潜伏期間が7−14日前後とすると、この中には4月1日に石垣島に来ていた方も含まれている可能性があります。休業してよかったなと思いますし、したがって石垣市内での発生もそろそろありうるということです。

その後石垣市も入島への自粛を求めましたし、ダイビング協会なども店舗に自粛要請をかけていますから、入域者はかなり減っていることと思います。おまけに天候不順も重なって夜の森に出かける人は少なくなっていると思います。私は人と会わないような場所で一人でホタルの調査をしているので状況よくわからないのですが。

SNSを見ると政権の文句を言ってる人が大勢いますが、僕みたいに高校しか出ていない人間でも大学の先生方がまとめたデータを見ればそれに気づけましたし、批判してないで自分で考えて行動すれば良いのになと思います。何よりSNSを見てるとその言葉の強さや汚さに疲れてしまいます。冷静さを失っている方が多く、成程。有事なんだなと気付かされます。こういう時だからこそ、冷静な気持ちと優しさを忘れずに過ごしたいですね。

追記2
 
2020/05/14
参考 野生のコウモリからこれま...Gigazine

「コロナウィルスの仲間はコウモリに感染しない」とする説も囁かれる中 上記のような引用を報告する理由は、私自身の情報の正確さを主張したいわけではなく、八重山諸島はもちろん、世界中のコウモリ類にとってヒトは脅威になりうることを広く一般に周知したいためです。

コウモリ類がウィルスによって減少したり、またはヒトに媒介する可能性があると言って駆除されるようなことになることは避けなければなりません。そのためには、私たちがコウモリの住む環境に出かける機会をできるだけ減らす必要があると思うのです。

追記1

石垣市では13日に最初のコロナウィルス患者の発表がありました。予測通り、第二週の発生です(検体を送っている関係で週明け月曜の発表)。その後2名から3名へと増え、そのうち2名が新しく市内にできた飲食店の開店パーティーに出席し、100人規模の人々と接触があったと発表がありました。

私はまず飲食関係に発生が出て、次いで旅行業(ツアーサービスなど)に発生がおき、小規模のクラスターで抑え込めると考えていました。冠婚葬祭行事での発生も考えてはいましたが、島外からの来島者がそこに紛れ込むことは稀と思っていて。でもまさかレセプションがあるとは思ってもいませんでした。15日には外出自粛要請が出るだろうと思っていましたが、実際には17日〜2週間の自宅待機の要請となりました。

今後、野生生物への伝搬を防げればパンデミックにはならないと思いますが、でもダラダラと観光客が入るため、小規模な感染の発生は続くと考えています。

ちなみに弊社でのコロナウィルスへの対応はこちら。この文章を書いているのは、最後のツアーを開催した4月2日から16日後(18日)となるため今の所キャリアではなさそうです。

途中買い物にいった先の店舗や対話があった人なども記録しつつ自己観察をしながら、家に引きこもっています。今だからできることも沢山ありますし、未来に向けて前向きに活動していきたいです。

エコツアーを開催する真意


(写真は2019年のホタルツアー)

りんぱなの理念は「見せることで守る」こと。ただ単に観光客にキレイな景色を見せてそれを利益に変えるのではなく、本心を言うと、自然を守りたいから見せています。でも「本当に守りたいなら人を入れなければいいのでは?」とお思いの方も多いでしょう。実は私もそう思っていた時期もありました。今は違います。

なぜ見せるのか。

それは、「見せることで守りたい」からです。

本当に美しい、数千匹のホタルが飛び交う森があったとしましょう。でも、そこが急に開発されてしまうことになったらどうしたら良いでしょう。そこは、私ひとりしか知らない秘密の森で、しかもホタルも終わりの時期で数匹しか飛んでいないような状況下で開発の話が湧いて出てきたとしたら…。

地元の人たちにうったえても「あんなとこにホタルなんていないよ」となるでしょう。私ひとりの声では開発は阻止しようがないです。

でも、もしそこでホタルツアーをやっていたら。そこでホタルを見た方の大半は、その開発に反対を唱えてくださることでしょうし、私だけでなく複数の業者さんたちが同じようなツアーを開催していたら、その声はもっと大きくなものになるでしょう。突然湧いて出たような開発であっても、短い期間で対抗できるかもしれない。

私が見(魅)せる本当の理由は、これです。

これ以上美しい自然がなくなる様子を見たくないのです。だからこそ今回の休業措置についても、早い段階で納得の行く答えを見つけることが出来ました。ただ単にビジネスとしてホタルツアーをやっていたなら、石垣市が宣言を出すまで他店同様にガイドを続けたと思います。今後の観光業に必要なこと,ものとは、見せる側の明確な意思であり、それをプレゼンできるエージェントや行政(インバウンドの受け入れに際しても)の理解と手腕ではないでしょうか。そうしなければ守れない。失われていく自然が増えれば増えるほど、観光客は減っていき生活は貧しくなるでしょう。

人は一人では生きられないといいます。人とひととの関係が大切だと。同様に、人が生きる環境そのものを大切にして生きていかなければ、生きることすらままならなくなる。そうならないよう、細部にまで渡って検討する必要があると考えています。

4 Comments

伊藤真

 乗車率0%の新幹線が記事になっている東京です。
 観光客がおし寄せて‥‥‥石垣島はどうしているかな、と知り合いのWebをめくっていた4月上旬「りんぱなはいつもどうりか」と、あきら君の文章は読んでいませんでした。いやいや、さすがに、そんなはずはありませんでしたね。
 でも、この文章発信はスタッフブログじゃだめですよ、1ページ目に掲載してください! 私はりんぱなのHPを訪れていたにもかかわらず気付いていなかったのです、コメントの存在に。せめて「今、りんぱなが伝えたいこと特設ページ」くらいの表題で、リンクを貼ってください! インフルエンサーは、受信してもらえてこその発信力です!
 決断できない優柔不断さ(よく言ってファジーさ?)が日本人の良いところなので、国や政府の判断に反旗を翻すつもりはありません。しかし、定刻通りの鉄道運行や数人しか乗っていない路線バスを見るにつけて、この戦いへの決意のなさにがっかりはします。「人が死んでるんだ、家から出るな」と怒っていたイタリアかどこかの知事は間違っていません。「死活問題なんだ」と眉をへの字にしながら営業を続ける飲食店もTVによく登場します。そんなに厳しい営業ならさっさと廃業すべき、と先輩自営業者の私は思います。現在の勤務校はご承知の通り、3月から臨時休校したままです。GW明けの再開も東京は怪しい。この際なんですから「9月新学期」策を取り入れて、欧米スタイルに変えてしまえばと思ったりもします。一番前向きになれないのは、政治家です。
 でも、おかげで東京の空は青くなりました。雨は多いものの、一年で一番いい季節です。換気は大事だからと、職場にも日和南風(ひよりまじ)が吹き抜けます。このところ寒気と暖気の出入りが激しいので、長梅雨になりそうですね。石垣はもうすぐでしょう。
 長くなりました。ご自愛くださいませ。碧い海と皆様によろしく。

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あきら

伊藤様、いつもHPをご覧いただいてとても嬉しいです。ありがとうございます!ご返信が遅くなってしまいすみません。

石垣島も南西と北東の間を風が行き来し、フローリングや洗濯物が「いつも湿っている」あの季節がやって参りました。

ご指摘いただいた通り、「ホタルツアーを自粛する理由」のページをわかりやすくトップページに所配置しました(画像も作り直しました)。本当におっしゃるとおりですね!読んでもらってこその情報ですね。

我が家(事務所)にはテレビがなくネットしか情報を得る手段がないので、かえって情報の取捨選択がしやすいです。研究者や行政が出している情報だけを引用しますし、他社と比べることもないので行動は早い方だと思います。

それに、エコが好きですが、基準はEconomicsでなくEcosystemで考えてしまいます。自然のことだけを考えて「自粛する」なんて言ったものの「やっぱり今月厳しいからツアーやっちゃおうかな」なんて思ったり。ファジーかつ小心者なのでそれこそ自粛をしております。

教育関係は見ていてもどかしいです。リモートで等と言っていますが、教える側からしたら「誰がやるんだ簡単に言うな」とお思いの方も多いのでは。学ぶ側だって差がでてしまいます。9月新学期の欧米スタイルも賛成です。収束が見込めなければいっそのこと1年休校してしまえば良いのにとさえ思います。

空の青さは嬉しいですね。日和南風(ひよりまじ)とは、「桜が咲く頃に吹く、暖かい南風」の頃合いと辞書を引くとでてきました。自然に触れるだけでなく言葉にもっと触れたい。そう気づかせて下さって、とても嬉しいです。伊藤さんもどうかお体にお気をつけになってお過ごしくださいませ。島の海も空も、伊藤さんとの再開を待ち望んでいます。
またお会いできる日を楽しみにしております。ありがとうございました。

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林 純

初めて御社のHPを見せていただいて、とても感動しました。特に、このページです。
私は、ダイビングと星空が大好きで石垣島にも何度かおじゃましています。次に伺う機会がありましたら、是非とも、このような思いでガイドしていただける御社にお世話していただきたいとおもいます。

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あきら

林様、HPをご覧下さりありがとうございます。ご返信遅くなってしまいすみません。

色々なページを見てくださったんですね。感動したとおっしゃっていただけて嬉しいです。

石垣島の海,森,空が大好きなところ、私も同じです。最近はサンゴ礁を再生させている場所もありますので、落ち着いたらぜひご覧頂きたいです。私たちの事務所は北部にあるので、ここで見る星空もきれいなんですよ。

いつの日かお目にかかれますことを楽しみにしています!その日まで、そしてその先もお元気お過ごしください。私もそう心がけます!

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