「放流」ではなく「環境デザイン」を選んだ理由

光の粒が体温を感じるほど近くを舞い、幻想的な没入感を体験する参加者のシルエット

ホタルの保全(守ったりすること)には大きく分けて「放流」と「環境整備」の2つの道がありますが、私たちは後者、つまり森の構造と環境条件を理解し、ホタルが自然に繁殖でき、豊かになることを最大限を引き出す、といった方法を選びました。

これは理念や感覚の話ではなく、ヤエヤマヒメボタルの生態特性と、15年以上にわたる現地観察・記録、そして近年のセンシングデータに基づいた、再現性のあるアプローチです。

「減ったから足す(飼育して増やしたホタルを放流する)」のではなく、「減った原因(環境悪化)を取り除いて、より快適な環境にする」。 これが、こちらの記事でお話しした「沖縄版・里山づくり」の具体的なアプローチです。

これは、本州にいるゲンジボタル(水生ボタル)とは全く異なる、ヤエヤマヒメボタル(陸生)だからこそ実現できた、合理的かつ持続可能な方法でもあります。


流域全体か、数百メートルの森か(特性の違い)

特徴水生ボタル(ゲンジ・ヘイケ)ヤエヤマヒメボタル(当フィールド)
生息域川・田畑の水路など森の中(局所的)
影響範囲生活排水、護岸工事、上流を含めた広範囲200m程度の森の環境に依存
保全難易度地域全体の合意形成が必要“小さな森” 単位での管理が可能

水生と陸生、守り方の違い

ゲンジボタルのような「水生ボタル」の保全に取り組む方々の労力は、並大抵のものでないでしょう。 川全体を考えなければならず、その水は沢山の人の暮らしと繋がっているからです。街灯をひとつ変えるのにも行政との折衝が必要ですし、その尊い努力には心からの敬意を表します。

一方、ヤエヤマヒメボタルは「陸生ボタル」といい、一生を狭い森の中で完結させます。 つまり、「森の環境がホタルにフィットすれば、外部要因に左右されずに自然に増えていく」という可能性があるのです。

こちらの記事で「この森は、私の両手が届く広さだった」とお話ししたのは、この生物学的な特性に基づいています。私たちはここに資源を集中させました。


勘や経験だけに頼らない「森の整備」

生きものが生息しやすい環境は、必ずしも「自然のまま(放置)」が良いとは限りません。 特に「昔は沢山いたのに、最近は減ってしまった」という場所には、必ず減ってしまった原因(マイナス要因)があります。その原因を特定し、取り除いてあげれば、環境は昔の姿を取り戻せる可能性があります。私は、そこをお手伝いしたいと思ったのです。

ヤエヤマヒメボタルの森もそうです。ただ放置したままでは下草が藪(やぶ)となったり、木が倒れて森が明るくなり、乾燥が進んでホタルがいなくなってしまうこともあります。 私たちは「ホタルにとって快適な家」を維持するために、以下のような指標で森を整備しています。

1. 環境センシングと予兆検知

森の中にIoTセンサーを設置し、照度(明るさ)や気温、湿度、土壌水分量などを常時計測しています。

「今年は雨が少ないな」という肌感覚だけでなく、データとして乾燥の予兆を検知できるため、以下のリンクで公開しているような「精度の高い出現予報」を立てることができます。

[▷リンク:【2026年版】ホタル出現予報はこちら ]

2. 風と光の物理制御

道幅を広げすぎれば風が抜け、乾燥が進みますし、ホタルも風に流されて飛びづらくなります。逆に狭すぎれば人が安全に歩けません。

私たちは、ホタルが最も飛びやすく、かつ風の影響を受けにくい「最適な道幅」と「木々の屋根(樹冠)の密度」を考え、剪定や植栽の管理を行っています。 こちらの記事でお伝えした「雨の日でも傘がいらないほどの森の屋根」は、偶然できたものではなく、こうして意図的に作られたもの(デザイン)なのです。

黄金色の光跡に包まれ、ホタルと同じ目線で静かに座って鑑賞を楽しむ参加者

ホタルのための空間は、人にも優しい

「環境を厳密に管理している」と聞くと、草木が生い茂った歩きにくい場所を想像されるかもしれません。しかし、ご安心ください。お客様にご不便を強いることはありません。

実は、ホタルのオスがメスを探すため(出会うため)には、自由に飛び回れる「適度な空間」が必要です。 私たちが維持している道幅は、街中の一般的な歩道よりも少し広く、大人がゆったりとすれ違うのに十分な余裕があります。

ホタルにとっての「最高の出会いの場(ステージ)」は、人間にとっても「圧迫感のない、快適な散歩道」でもあるのです。木々の密度を考えると前述しましたが、森全体を数値化する方法にも取り組んでいます(森全体を3Dスキャンし、AIなどの力を借りて数値化する方法)

3. 光害の徹底排除

「懐中電灯を使うだけで、数年後にはホタルが減る」。 これは大げさな話や精神論ではなく、生態学的な事実(リスク)です。

強い光は、オスとメスの光によるコミュニケーション(求愛)を阻害し、次世代の数を確実に減らしてしまいます。 当エリアで「車両通行を制限」し、ツアー中の「完全消灯」を徹底しています。これは単なるマナーではなく、個体数を維持・増加させるために必要な条件なのです。

こつこつ続けた結果が、ホタルの数として現れた

私たちの森では、長年の環境デザインによってホタルの個体数が着実に増加しています。

かつて、この場所では最大500匹程度のホタルが飛び交っていましたが、周辺の土地開発の影響を受け、一時はわずか20匹(最低時)にまで激減しました。開発終了から今日までの私たちの活動により、昨年では開発以前の4倍にあたる2,000匹規模の群舞が見られるほどに回復(復元を超え、向上)しています。

「人の歩み」がホタルの出会いを助ける仕組み

このV字回復を支えた要因の一つに、前述した「道」の管理があります。 古い未舗装の林道は、人が使わなくなると草が猛烈に茂り、地表付近で活動するヤエヤマヒメボタルにとって「オスがメスを見つけるための空間(出会いの場)」を遮ってしまう障害物となります(石垣島は霜が降りることがないため、冬でも植物は成長する)。

私たちは、ツアーのフィールドとしてこの道を適切に活用し、人の歩みによって草の量を最適に維持することで、「ホタルが出会いやすい空間」を物理的に再構築しました。人が関わり続けることで、かつての里山のように、自然の繁殖力そのものが最大化される環境を整えたのです。

厳しい気象条件で見えた、森の「回復力」

2024年は3月前半に急激な冷え込みがあり、石垣島・西表島全域でヤエヤマヒメボタルの個体数が例年に比べ減少しました。島全体の発生が遅れる中、当フィールドでは他所よりも早く光が始まり、出現数の落ち込みも最小限に留まりました。

これは、15年かけて積み上げてきた防風構造が、気温の低下という「負荷」に対し高いレジリエンス(回復力・安定性)を持ちえることを示すエビデンスになるのではないかと考えています。

データの信頼性:15年続く「ライントランセクト法」による定点観測

動画: ホタル(オス)の数の経年比をわかりやすく表現した動画(ビジュアライゼーション)です。

1. 測定の同一性と精度管理

毎晩の個体数調査は、「ライントランセクト法」という専門的な手法を用いて行われます。 原則として常に同一のスタッフ(ガイドあきら)が同一のルート、同一の基準でカウントすることで、データにブレが出ないようにしています。

また、定期的に複数のスタッフが同時に測定を行い、数値を照らし合わせる「校正作業」を実施しています。約1,000匹の出現に対し、3名のスタッフ間での誤差は最大でも50匹以内(5%以下)に抑えられており、極めて高い測定精度を維持しています。

毎晩ホタルツアーを開催できるからこそ、こうした調査が継続できます。お客様には感謝の念が耐えません。ツアー中に調査ができる理由はこちらのページでも触れています。

2. シミュレーション動画が示す「減少」と「再生」の事実

上記のビジュアライゼーション動画は、各年の最大出現数の経年比をドット(白い点)としてプロットしたものです。

  • 於茂登岳エリア(2012年〜2020年): 公共の林道である於茂登岳周辺では、2020年までの調査期間中、光害や環境負荷の影響により個体数が顕著に減少している様子が視覚的に確認できます。
  • 当社専用フィールド: 対照的に、環境デザインを施した当フィールドでは、激減期を乗り越え、現在進行形で光の密度が回復・増加し続けています。

3. 次世代の定量化への挑戦

私たちは現在の目視観測に満足することなく、より客観的かつ高精度なデータ取得を目指しています。現在は、無人定点カメラとAI画像解析を用いた定量化システムなども、自社で開発・導入し、検証を進めています。


専門家も絶句した「メスの多さ」

私たちの森が、健全な繁殖サイクルを維持できている何よりの証拠。 それは「メス」の姿にあります。

ある時、日本陸生ホタル研究会(プロ・アマの専門家集団)の方がツアーに参加してくださいました。 その際、地面にいたヤエヤマヒメボタルのメスをお見せしたところ、その方は絶句されました。

「別の種類ですが、私はメスを見つけるのに10年かかりました…。 陸生ボタルのメスが、こんなに簡単に見つかるなんてありえない!」

ヤエヤマヒメボタルのメスは羽が退化しており、飛ぶことができません。 体の大きさもわずか4mm〜5mmほど。「炊く前のお米」のようなサイズで、普段は落ち葉の下に隠れているため、本来見つけることは極めて困難です。

しかし、当フィールドでは探そうと思えば、確実にメスの姿が見つかります。 これは「生息密度が極めて高く、オスとメスが出会う確率が最大化されている」ことの証明です。

(……または、単にガイドあきらが、メスを探すのが特別上手。という可能性もありますが 笑)

専門家さえ「ありえない」と唸る光景。 それが、私たちが15年かけて積み上げてきた「環境デザイン」の確かな成果です。


視界180度に広がる星空を背景にした、開放感あふれる夜の石垣島でのグループ撮影

矛盾するようで理にかなっている、「人が来るほど増える」メカニズム

冒頭で「人が来れば来るほどホタルが増える」と触れましたが、これは魔法ではありません。ここまで解説した環境デザインを維持するための「資源(資金と労力)」が、ツアーによって生み出されているからです。

  • 経済的な循環: 頂いたツアー料金は、IoTセンサーやセンシング機材の制作・維持、植栽管理の費用に直結しています。
  • 物理的な循環: お客様が森を歩くことで地面が適度に踏み固められ、ホタルのための「空間」が物理的に維持されます。

「観光」と「保全」。 相反するように見える2つが、ここでは車の両輪のように機能し、ホタルを増やすためのエネルギーになっています。 この「想い」や「里山としての哲学」については、以下の記事で詳しく綴っていますので、ぜひ併せてご覧ください。

[▷ リンク:人が来るほどホタルが増える?そんなツアーってどういうこと?]


成功事例を、次の世代へ

石垣島全体で見ると、残念ながらヤエヤマヒメボタルは減少傾向にあります。しかし、当社フィールドのデータから「適切な人の介入があれば、ホタルの数は維持できる(場合によっては自然に増やせる)」という希望を示しています。

私たちは、この場所を単なる観光地として消費するのではなく、「再生生態系の成功モデル」としてデータを蓄積し、社会に還元していきたいと考えています。

あなたがツアーに参加し、この森の豊かさを目撃すること。それが、この成功事例を未来へ繋ぐための、大きな支援にもなるのです。

共に未来をデザインするパートナーを求めて

現在、この活動をさらに加速させるため、前述したAI解析システムの高度化や、他フィールドへの技術転用を目指した研究開発も進めています。

これらの挑戦は、現在、自社資金のみで運営していますが、より迅速に、より広く社会へ還元するためには、同じ志を持つパートナー様(機材支援・共同研究・開発資金バックアップ等)の力が必要です。

この森から始まる新しい保全の形を、共に創っていただける企業や、個人の方々からのご支援を、心よりお待ちしております(お問い合わせはこちらにお願いいたします)

そして貴方のお越しを、未来への一歩を、こころからお待ちしております!

[ ▷ この取り組みを支えるホタルツアーはこちら ]